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語られない闇を語る

司法試験、大学受験、労働問題、社会問題などを中心に、あまり語られていない・語りつくされていない闇について語っていこうと思います。苦難と失敗から得た知見を曝け出していく予定です。

優秀な高校生が医学部ばかりに行く問題 続き

大学受験、受験一般 社会

 先日、最近では優秀な高校生が医学部ばかりに行きがちという話をしましたが、思った以上に反響がありました。

 そこまで語られない話題ではありますが、理工系の人を中心に、危惧感を持っていたり、何となくもやもやする気持ちを抱いていたりする人は多かったということでしょう。

yamifuka.hatenablog.com


 せっかく、多くのコメントを頂いたので、コメントを参考にしつつもう少しだけ語りたいと思います。ただ、あまり過度の期待はしないでください。

 

 

○何が問題かについて
 簡単に先日の記事のおさらいをしますと、以下のようになります。

 最近は、志願者数の増加や偏差値の上昇を見てわかる通り、医学部志向がさらに進んでいる。
 昔なら東大理科一類二類や京大の非医学部に行っていたような人まで、他大学の医学部に行きがちになっている。


→優秀な学生はみんなつまらない医者になってしまう。
 本来なら、工学などの分野で超一流となって、素晴らしい業績を上げ技術革新に貢献しただろう人がその分野から消えてしまう。

 

 さすがにそれは杞憂じゃないかという趣旨のコメントも多くいただきましたが、ノーベル賞を受賞した赤崎勇氏(京大理学部)、小柴昌俊氏(東大理学部)、根岸英一氏(東大工学部)、野依良治氏(京大工学部)のような方々も、現在高校生だったとすると、年収面や安定面などの魅力から医学部に行ってしまっていた可能性が高いわけです。

 

 これらの偉人に近い適性・資質をもった高校生も、広い世の中にはいるでしょうが、現在ではそういう人たちも医学部に進み、普通の医者を志す可能性が高いのです。

 そう考えると、やはり不安は大きくないでしょうか。

 

 

 あと、「それだけすごい人たちなんだから、どうせ医学部に進んでも素晴らしい功績をあげただろう」と言う声もありました。

 

 確かに、ある程度はそういうことが言えるでしょうが、人にはどうしても適性というものがあります。

 「野球の才能がある人が、サッカーをやっていたとして、トッププレイヤーになれただろうか」というのと同じことでそう簡単に物事はいかないでしょう。

 レベルが高くなればなるほど、努力だけではどうしようもなく、適性やその分野における資質がないと厳しくなりますし、理学部や工学部で凄い実績や功績を残せる素質を持った人であっても、医学の世界で同等の実績や功績を残すことはできないことが多いでしょう。

 

 そういうことで、他分野の超一流人材が医学部に流れ、普通の医者になってしまうことのリスクはやはりそれなりに高いのではないしょうか。※1

 


○受験生や親御さんとしては当然の選択
 「他の学部より将来があるから当然」「受験生側を責めるのはおかしい」というコメントも多くいただきました。
 私自身も、受験生や親御さん側からすれば当然の選択ですし、極めて合理的な選択だと思っています。

(というか、受験生サイドを責めたつもりは一切ありません。)

 

 というのも、高齢化で医師需要が大幅に減ることはまずなく、国際競争にあまりさらさない分野なので、他学部出身者と違って就職で困ることもまずないですからね。おそらくここ30年ぐらいは安泰でしょう。※2

 

 そして勿論、平均年収のよさは素晴らしいです。勤務医はそこまで高くないという意見もあるでしょうがそれでも他業種と比べると十分ありますし、開業医ともなれば随一となります。

 エンジニア等理工系の人が就く業種とは比べ物にならないでしょう。年収の点では対抗馬となる弁護士の平均年収もガタ落ちしているので、一人勝ちの様相を呈してきています。

 厚生労働省「平成27年 賃金構造基本統計調査」では、医師・弁護士が平均1100万円程度で、システムエンジニアが平均600万円ほどです。

医師の給料・年収 | 医師の仕事、なるには、給料、資格 | 職業情報サイトCareer Garden

システムエンジニアの給料・年収 | システムエンジニアの仕事、なるには、給料、資格 | 職業情報サイトCareer Garden

弁護士の給与・年収 | 弁護士の仕事、なるには、給料、資格 | 職業情報サイトCareer Garden

 

 それに、会社員のようにリストラに怯えたり、会社の倒産に怯えたりする心配がないですし、他業種と違って転職も容易でしょう。

 また、初期費用が高いという問題はあるものの、それさえ乗り越えられれば上手くいきやすいので、他業種に比べ独立(開業)も成功しやすいでしょう。

 

 あと、人の生命や健康のために働けることもあり、やりがいという点でも魅力的でしょう。最近の学生さんは心から人を救いたいを思っている人が多そうですし。私のような金や名声に汚い人ばかりではないのですね。

 

 

 まとめますと、今後も需要があり業界の将来が明るい、平均年収がダントツで高い、就職で困らない、転職や独立もまだやりやすい、やりがいにあふれているのです。

 さらに言いますと、女性でも出産によりキャリアを完全に断絶させることなくバリバリ働ける、勤務地を転々としなくてよい、地元で暮らせる、優秀な頭脳を欲しがる外資系企業等に行くことも期待できる、研究職に進んで上手くいかなくても医者に戻って十分良い暮らしが期待できるなど様々なメリットがあります。

 

 そういうわけで、頭脳に自信のある人にとっては医学部を目指すというのは至極合理的な選択なのです。※3
 社会にとっては、理工系で超一流の人材を失うという大損失になるかもしれませんが、優秀な受験生や親御さんにとって合理的であることは間違いないのですし、彼らを責めるのはお門違いでしょう。

 

 

○大学側の努力だけでは到底どうにもできない
 「アピール不足じゃなくて年収の問題」、「大学が頑張ったところでどうしようもない」などのコメントも多くありました。

 これもまた、まさにそうだと思います。

 

 一応、大学が力を入れて優秀な学生を囲い込もうとすれば、「医学部行かなくてもまあまあ良い暮らしはできそう」、「医学部ほどではないけどそこそこの企業には入れそうだし、まずまずは安定してそう」といったことを考えて、工学部や理学部に入学する人も多少は増えるでしょうし、少しは成果があるでしょう。

 

 とはいえ、優秀な高校生は年収面や安定面をしっかり頭に入れているでしょうし、あくまで多少に過ぎません。

 いくら広報活動に力を入れ、高校生を勧誘したとしても、高校生も賢いので、年収の高さや雇用の安定を見て、医学部に行くほうが良いとの現実的な判断をすることが多いのです。

 結局、エンジニアなどの待遇面を医者レベルに近づけないと、どうしても優秀な学生は医学部に行ってしまうでしょう。

 


 大学を出た後の問題で医学部志向になっているわけですし、どうしても大学だけの努力では限界があります(だからといって、医学部に優秀な学生が奪われるのを手をこまぬいて見ててはいけませんが。)。
 とにかく給料が上がらないとどうしようもないですし、将来の見通しが明るくないといけないので、産業界に頑張ってもらうしかないところが大きいのです。

 

 

○結局、他の業種と待遇面、安定面の違いが大きすぎるのがいけない

 「結局、エンジニアなんかの待遇が悪すぎるのがいけないんだよな」「結局、問題は年収よ」というようなコメントも多くいただきました。これもまさに(以下省略

 

 有名大学の理工系に進んでも、医者ほどの給与を得るのはなかなか難しいですし、会社員にはリストラや会社倒産などのおそれがあるので、安定面も医者には到底敵いません。転職市場が他国ほど育っていない日本では、大手企業でバリバリ勤めていた人でも転職に苦労したりしますし。

 

 それに医学部出身以外で研究職を目指すとなると、それこそ修羅の道です。ポスドクの惨状はもはや説明する間でもないでしょうが、医師になるという保険がある医学部以外で研究職を目指すというのはリスクがあまりに高すぎです。

 北朝鮮ですら技術者は高級マンションが与えられて総書記が直々に激励していたりしますし、もっと日本の技術者への待遇はよくていいはずなのですが、どうもそうならないですね。中国企業や韓国企業に人材が流出するような境遇であってはならないはずなのですが、残念ながらそのような境遇になっているのが現状です。

 

 また、今や、弁護士でも平均年収はガタ落ちして(平均所得が2000年から2010年で200万円以上下落。その後も減少傾向。今後は医師を下回っていくことが予想されている。)、就職難、廃業が問題視されていますし、医師以外の資格についても厳しい状況が続いています。

 歯科医や公認会計士などの高度な資格を要するものでも、競争激化によって弁護士に似た状況が起きており、年収面、安定面は医者に遠く及ばないのが実情です。

 

 

 要するに、サラリーマンとして働く場合は勿論のこと、かつてはプラチナ資格だった弁護士などになる場合であっても、年収面安定面等で医者には遠く及ばないのです。

 なので、相対的に魅力の高まった医者に人気が集中するのも当然のことです。

 

 エンジニアなどの待遇が良くできれば、誰もかれも医学部とはならないのでしょうが、現実にはまず厳しいでしょう。

 ただ、診療報酬を激減させたり、医師の人数を増やして競争を激化させたりするなど医師の待遇が悪化する方向に進めば、優秀な学生が医学部ばかりに人気が集中する問題は解決していくと思います。

 おそらくこの問題が解決するとしたら、そういう皮肉的な結末ではないでしょうか。

 

 

○その他のコメントについて

・金とか安定とか名誉のために医者になった人とか不安

 昔から、「とりあえず、元々勉強ができて学力が高いから」、「独立して金をしっかり稼ぎたいから」、「親が医者やってるから」という理由で医者を目指していた人は少なくなかったので、昔とそんなに差はないと思います。安心してください。前からそんな人多いですよ!

 むしろ、今の学生さんを見ていると、本気で人を救いたい、人のために何かしたいとの欲求を持っている人が多そうですし、真に患者を救いたいと思って医者になる人の割合は増えているのではないかと感じます。

 あと、志願者がすごく増えている分、本当に熱意をもって医者になりたいと勉強している人じゃないと受かりにくくなっていると思います。

 

・今は人気が高いけど、これからはそうもいかないぞ

 歯科医や弁護士、公認会計士などでも競争が激化していますし、将来的には、定員を微増してきている医師も競争激化により今のような一人勝ち状況はなくなるかもしれませんね。日本の総人口も減ってきており、需要は減っていきますし。

 ただそうはいっても、需要はまだまだ多いですし、国際競争色もさほどないので、他の業種ほどの状況になるのは当分後ではないかと思います。年収はやや下がるかもしれませんが、それこそ30年ぐらいは安泰ではないかと思います。

 

・医者をつまらない言うな

 医師の皆さま、すみませんでした。

 

・海外でも同じような状況になっているよね

 グローバル化の影響を受けやすい製造業なんかは打撃を受けやすいですし、どうしても理工系を中心に業界自体が苦しい状況になりがちなんでしょうね。

 世界の英知が医療界に集中すると考えると患者目線では素晴らしいですが、その分理工系に英知が集まりにくくなると考えるとやっぱり問題が大きい気がします。 

 

・昔から言われてたよね

 そうなのですが、失われた20年とリーマンショックで、さらに一段と医学部志向が高まりました。

 予備校も今や「東大京大阪大(以下略」より「医学部医学部」と強く言ってきている気がしますし、優秀な人材が医学部ばかりに行ってしまうという問題・不安は一段強まっていると思います。

 

・周りでも医学部再受験がいる

 大変だとは思いますので、どうか労わってあげてください。

 自分のいる業界に限界を感じたら見切りをつけて思い切った選択をするのも、ときには必要でしょうし、今の状況が続けば再受験人気もより強まるのではないかと思います。

 ちなみに私は2年時編入や3年次編入の方を考えています。

 

 

 そういえば、前の記事でさらっと弟が医学部に行ったという話をしましたが、医学部を最も強く勧めたのは私なんですよね(弟と父は普通に京大工学部でいいと思っていた。)。

  当時は、非医学部と医学部では社会的評価が全く違う、平均年収が全然違う、かけがえのない自信を持てる、その気になれば頭脳をアピールして外資系企業などに就職することも期待できる、医学部に行けるだけの頭脳があるのにそれを活かさないのはもったいない、リストラされれば終わりの他学部とは安定性が違う、コミュ力がアレでも就職はなんとかなるといった話をした記憶があります。

 

 まあ、最終的には本人自身が医学部という道を選んだので、医者が合わなかったとしても本人の自己責任ですけどね(責任放棄)。とりあえず、カネ、名誉、安定ばかりを重視して医学部を選んだわけではないと信じたいものです。

 ちなみに、母は年収に目を輝かせて医学部に行くよう応援していました。私は母のクローンでないかとときどき思います。

 

 

※1:この手の問題は、他の分野でも見られていることです。

 フィジカルエリートがみんな野球部に行く問題、良い選手はみんな投手になってしまう問題、良い選手はみんなミッドフィルダーになってしまう問題、大谷野手投手論争などがそうですが、今季の大谷選手に野手をやらせてなかったらと思うと本当損失は大きいですね。

 大谷選手を見ると、才能を眠らせておくか、呼び覚ますかは大きな違いだと感じざるを得ません。

 

※2:野球のトミー・ジョン手術は米国に、性別違和症の性別適合手術(SRS)はタイに顧客を奪われているなど一部の高度専門医療については国際競争色が強かったりします。しかし、他の業種と比べるとやはり国際競争という要素は弱いでしょう。

 あと、50年スパンで見ると、人工知能の台頭で需要が激減するおそれがあります。ただ、それは他業界でも同じですし、医療界より他業界の方が就職難の影響は深刻そうと考えると、特に取り上げて考えるほどのことではないかもしれません。

 

※3:偏差値が高く、センターで理科を3科目やるなど科目数も多いので、医学部に合格するまでは確かに大変です。頭脳に自信がない人にとっては、大学に受からないというリスクがあるので、医学部受験は無難な選択ではないと思います。